初心者必見!オーディオアンプ自作の手順をわかりやすく解説
電子工作初心者でもできる、オーディオアンプ(パワーアンプ)自作の手順を丁寧に解説していきます。
今回作るアンプは、普通の家で聴くのに十分なボリュームが出ればいいので、出力は1W程度にします。
出力を抑えた分、A級アンプにして音質を向上、でも小型というところを目指します!
アンプのブロック図
今回作るオーディオアンプの構成はこんな感じ。
このブロック図は片ch分なので、ステレオの場合は電源回路以外のブロックがもう一つずつ必要になります。
電源部
片電源(マイナス電圧の無い電源)としました。
ACアダプターから生成される12Vを、アンプ内部の電源回路で9.5Vに降圧します。
内部電源はACアダプターのノイズ除去が目的です。
両電源(正負の電圧がある電源)にする場合は、トランスを使ってコンセントから直接アンプ用電源を生成する場合も多いのです。
ボリューム調整
ボリュームを調整するための可変抵抗です。
ツマミを回すと電圧の分圧値が変わるので、入力された信号の振幅を変化させて音量を調整することができます。
電圧増幅部
スマホのイヤホンジャックやDACの出力はラインレベルと呼ばれ、振幅は1Vp-p程度しかありません。
スピーカーを鳴らすためにはもっと大きな電圧が必要なので、オペアンプを使って電圧を増幅します。
電流増幅部
電圧増幅した信号を電流増幅して、低インピーダンスで出力するための回路です。
スピーカーのインピーダンスは4Ωから16Ω程度と低いので、大きな音を鳴らすためには出力インピーダンスを低くして、大きな電流を流せるようにする必要があります。
回路設計
今回作ったアンプの回路図です。
各ブロックをどうやって設計したのか、その手順を詳しく説明していきます。
電源の設計
出力は8Ωのスピーカーに1W出力することを目標とします。
出力電力:Pは
\[
P = \frac{V^2}{R}
\]
で計算できるので、R=8Ωとすると必要な電圧は
\[
V = \sqrt{ 8 } = 2.83
\]
となるので、1W出力するために必要な電圧振幅は±2.83V、5.66Vp-p必要です。
後で解説しますが、出力段での電圧降下を加味しても出力電圧が電源電圧より低くないと音が歪んでしまうので、電源電圧は余裕を持って9.5Vとします。
余裕を持たせすぎて電圧を大きくしすぎると、出力トランジスタに発生する電力損失が大きくなるので注意が必要です。
ACアダプターの出力を直接電源として使ってもいいのですが、ノイズが乗っている場合が多いので、ノイズ除去用の電源を作ります。
電源ICを使うと小型化できるのですが、今回は音がいいと良く言われるディスクリート電源を作ってみます。
ディスクリートとは、ICのように機能が集積化されたものでなく、単機能で1つの半導体素子で構成された部品のことです。
今回使った部品は、トランジスタ、ツェナーダイオード、抵抗、コンデンサです。
出力電圧はツェナー電圧とトランジスタのVBEで決まります。
アンプの消費電流が大きいので、出力トランジスタはダーリントン接続とします。
外部サイトダーリントン接続の特徴と用途
振幅が±2.83Vのサイン波を出力したときの電源の消費電流は、シミュレーションで約200mArmsでした。
したがって、トランジスタQ7の消費電力は、
\[
P = (12 – 9.5) \times 0.2 = 0.5 \mathrm{ W }
\]
となります。
TTC004Bは放熱板なしで1.5Wの許容損失があるので、十分マージンを持った設計となっています。
内部電源を使うことで、このようにACアダプタのスイッチングノイズを除去できています。
ボリュームの選定
ボリュームというのはこういう部品。
安くて音質が良いと評判のLinkmanのR1610G
ツマミを回すことで抵抗値が変化します。
入力信号をA点に、B点をGNDに、C点を出力として使うと、C点はA-C間の抵抗値とB-C間の抵抗値との抵抗分圧値が出力されます。
これにより、入力信号を減衰させることができるので、音量を調整することができます。
ステレオなので、1つのツマミで2つのボリュームが調整できる、2連ボリュームを使います。
ボリュームにはAカーブ、Bカーブ、Cカーブといった特性のものがあります。
オーディオの場合は基本的にはAカーブを使います。
これは人間が感じるボリューム変化が対数的なので、Aカーブの方が自然に聴こえるためです。
入力カップリングコンデンサ
ボリュームの後ろに直列に接続されたコンデンサ:C1は直流をカットするのが目的です。
ACカット後の電圧の中心値は電源電圧の1/2にするために、R3-R4の抵抗分圧の中点に接続します。
カップリングコンデンサと抵抗R3,R4によってハイパスフィルタが形成されます。
カットオフ周波数が高いと低音がカットされてしまいます。
今回は10uFのコンデンサを使っているのでカットオフ周波数:fcは
\[
fc = \frac{1}{2 \pi RC} = 0.32 \mathrm{ Hz }
\]
と計算され、可聴帯域より十分低いので問題ありません。
Rは抵抗R3とR4の並列合成抵抗になるので50kΩです。
オペアンプの選定と設計
はじめてのアンプ自作なので、入門レベルのオペアンプを使います。
選んだのはmuses8820です。
オペアンプはソケットを使って実装します。
こうしておけば、後からオペアンプを変更して音の違いを確認して楽しむことができます。
電圧増幅率計算
ラインレベルの電圧振幅は1Vp-p程度です。
最終出力電圧の目標は5.66Vp-pなので、5.66倍の増幅率が必要です。
増幅率は抵抗:R12,R13で決まります。
増幅率:AVは
\[
A_{ V } = \frac{R12 + R13}{R12} = 5.7
\]
と計算できます。
フィードバック部分にコンデンサ:C3が入っているのは、DC電圧(中心電圧)をオペアンプの非反転入力側と合わせるためです。
オペアンプの2つの入力のDCレベルに差が生じると、その差を増幅してしまいます。
必要なのはAC成分だけなので、DC成分は増幅されないようにする必要があります。
コンデンサは低周波ではインピーダンスが無限大となるので、周波数がゼロならオペアンプを含めたフィードバック回路はボルテージフォロワとして働きます。
外部サイトボルテージフォロワとは?
周波数がゼロならオペアンプの非反転入力電圧は電源電圧の半分になるので、出力も反転入力電圧も電源電圧の1/2になります。
これによりDC電圧が一致し、DC成分は増幅されず、AC成分だけが増幅されるのです。
ダイアモンドバッファ
電流増幅段にはダイアモンドバッファと呼ばれる方式を使います。
初段(Q1とQ3)がエミッタフォロワで電流を増幅し、かつVBEのバイアスをかけます。
回路構成としてはAB級アンプとなるのですが、Q2、Q4に流れる電流が大きく、発熱が大きくなるので、実際にはA級アンプ動作になります。
トランジスタのVBEは温度が上昇するほど小さくなるためです。
VBE1>VBE2、VBE3>VBE4となり、Q2とQ4が常にオンしている状態となるのです。
熱暴走に注意
温度が上昇してVBE2とVBE4が小さくなると、アイドリング電流が増加して発熱が増加します。
すると、さらにVBE2とVBE4が小さくなりアイドリング電流が増える…という動作を繰り返し、Q2,Q4の許容損失を超えて最悪破壊してしまいます。
この挙動を熱暴走と言います。
対策には、
- エミッタ抵抗を入れる
- 熱結合する
の2つがあります。
エミッタ抵抗:RE1,RE2はトランジスタ:Q2,Q4に流れる電流:IE2,IE4によって電圧降下:R1×IE2、R2×IE4を発生させます。
これがQ2,Q4のVBEを底上げしてくれるので、発熱によるVBEの低下をキャンセルさせ、熱暴走を抑制させることができます。
もう一つは、Q1とQ2、Q3とQ4を近接配置し、Q2,Q4の熱がQ1,Q2に伝わるようにする方法です。
Q1とQ2、Q3とQ4の温度差がなくなれば、VBEの差もなくなり熱暴走を抑制させることができます。
これを熱結合と言います。
基本的にはこの2つの対策を合わせて使います。
インバーテッドダーリントン
出力電圧は最大2.83Vを想定しているので、8Ωスピーカーでは最大354mAの電流が流れます。
これに加え、オフセット電流もトランジスタに流れます。
1段のプッシュプルで出力するとベース電流が大きくなってしまうので、インバーテッドダーリントンという2段のプッシュプル回路にします。
外部サイトインバーテッドダーリントン接続の特徴
この構成にすることで、熱暴走の対策にもなるというメリットがあります。
トランジスタ:Q2に流れる電流はQ4の1/hFEになるので、発熱が小さく熱暴走しにくくなるのです。
また、電流が小さくなることにより、HN1B01FというNPNとPNPが1パッケージになったトランジスタを使うことができます。
Q2とQ6、Q1とQ5をHN1B01Fにすることで、簡単に熱結合ができるので、熱暴走をより起こりにくくすることができるのです。
最低動作電圧の計算
電源電圧が何V以上あれば信号が歪まずに出力できるかを計算します。
確認する箇所はオペアンプと出力段です。
オペアンプの最低動作電圧
MUSES8820のデータシートを見ると、最大出力電圧は電源電圧が±15V時に±13.5Vとなっています。
(min値は±12Vですが、実力は±14V以上あるので、typ値の±13.5Vで計算していきます)
今回の場合、出力電圧は1.5V〜VCC-1.5Vまでしか出力できないということになります。
オペアンプの出力電圧は、VCC/2を中心に最大±2.83Vなので、必要な電源電圧は
\[
\begin{eqnarray}
&VCC& \gt \frac{VCC}{2} + 2.83 + 1.5 \\
&VCC& \gt (2.83 + 1.5) \times 2 = 8.66 \mathrm{ V }
\end{eqnarray}
\]
となり、8.66V以上の電源電圧が必要となります。
出力段の最低動作電圧
出力段の最大出力電圧は、電源電圧からR8の電圧降下、Q2のVBE、R9の電圧降下分低下した値になります。
オフセット電流やhFEの影響も考慮する必要があり手計算では難しいのでシミュレーションで確認すると、VCC-1.3Vでした。
したがって、必要な電源電圧は
\[
\begin{eqnarray}
&VCC& \gt \frac{VCC}{2} + 2.83 + 1.3 \\
&VCC& \gt (2.83 + 1.3) \times 2 = 8.26 \mathrm{ V }
\end{eqnarray}
\]
となり、8.26V以上の電源電圧が必要となります。
よって、ボトルネックになるのはオペアンプの最低動作電圧であり、電源電圧は8.66V以上必要ということになります。
今回設定している電源電圧=9.5Vは十分マージンがある電圧であることが分かります。
電源電圧に余裕を見すぎると出力トランジスタの損失が大きくなるので、電源電圧は過剰に大きくし過ぎないようにしましょう。
シミュレーション
それでは、完成した回路の特性確認をしていきたいと思います。
過渡特性
入力電圧と出力電圧の確認です。
設計通りの電圧増幅作用が確認できました。
次に、出力トランジスタ:Q4とQ3の電流を確認します。
全領域でカットオフしておらず、A級動作になっていることが分かります。
また、入力電圧=0V時のアイドル電流は、約200mAです。
歪み率
全高調波歪みは、
Vin=0.5Vp-p: 0 . 0 0 1 7 7 4 %
Vin=1.0Vp-p: 0 . 0 0 5 4 0 9 %
でした。
Vin=1.Vin=1.0Vp-pの1kHzサイン波入力時の出力波形をフーリエ変換した結果がこちら。
2次高調波で、約-80dBとなっています。
周波数特
入力に対する出力の周波数特性です。
低周波のカットオフ周波数は9.2Hzで、十分低い周波数になっていると思います。
この周波数は出力のカップリングコンデンサ:C2の容量で決まります。
容量を大きくするほどカットオフ周波数が下がるので、低音が減衰しにくくなります。
位相余裕度
フィードバックを掛けているので、アンプが発振しないかどうかを確認します。
位相余裕は54°あり、一般的な基準の45°以上あるので発振の心配はありません。
基板へ実装
設計したオーディオアンプを基板に実装して完成させます。
アンプの出力トランジスタとディスクリート電源の出力トランジスタにはヒートシンクを取り付けています。
ダイソーにちょうどいいサイズのケースがあったので、穴を空けてボリュームや端子などを取り付けました。
音を聴いてみての感想
シンプルな作りのアンプですが、思った以上に音が良いです!
手元にあったDENONのPMA-390SEと聴き比べると、クリア感は負けますが自作の方が迫力がある感じの音で、ロックなんかを聴くには自作アンプの方が良さそうです。
次はラズパイとDACを使って、高音質ネットワークオーディオを作っていますので、こちらもチェックしてみてください。